病院・クリニック市場の理解(医療業界への新規参入企業向けマーケティングの基礎 Vol.2)
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業種
企業経営
- 種別 レポート
本記事では、医療業界への新規参入企業向けに、医療市場や直近の政策動向について解説しています。第2回は「病院を取り巻く経営環境」について記載します。
[過去の記事はこちら]
第1回 病院・クリニック市場の理解
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第2回 病院を取り巻く経営環境
第2回では、病院の経営環境について、財務状況の視点から解説します。
1. 病院の財務構造の特徴と課題
病院の収益は主に患者が入院することによって得られる入院診療収益と、患者が外来受診することによって得られる外来診療収益で成り立っています。厚生労働省が発表している医療経済実態調査によると、医業収益に占める入院診療収益の割合は66.9%、外来診療収益の割合は28.4%であり、入院診療収益と外来診療収益で全体の95.3%を占めています。特に入院診療収益が占める割合は大きく、入院診療収益の確保が病院経営にとって成功の鍵を握っています。
※医業収益には介護収益は含めていない
※出所:厚生労働省「第24回 医療経済実態調査」
(医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の医療機関等の集計1 一般病院)
病院の費用で最も大きな割合を占めるのは人件費(給与費)です。病院は、医師や看護師といった有資格者が医療サービスを提供する労働集約型の事業であり、医療法や診療報酬制度で、病院に配置しなければいけない最低人員数が規定されています。一方で、要件を満たす職員を配置すれば高い報酬を得られるなどの特徴もあります。職員の配置が診療報酬(売上)につながる側面がありますが、職員を稼働状況に応じて増減させるということが難しく、報酬とコスト(人件費)のコントロールが必要となります。
また、病院は医療を提供するという特性上、建物や医療機器等への投資が必要であり、それらを維持するための固定費も発生します。病院は、労働集約型の事業であると同時に、医療機器等の設備機械への投資も必要な設備投資産業でもあります。このことから、収益を伸ばし、利益を確保するには、職員や設備の生産性の向上や最適化が重要なポイントとなります。
※出所:厚生労働省「第24回 医療経済実態調査」
(医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の医療機関等の集計1 一般病院)
2. 病院の利益率の変化
厚生労働省が発表している医療経済実態調査をもとに病院の利益率の変化を見てみると、2012年度以降、医業利益率は低下傾向にあることが分かります。特に2020年以降に新型コロナウイルス感染症が拡大したことを受けて、2020年度の医業利益率は大きく下がり、直近の2022年度は-6.7%となりました。
一方、総損益率は2020年から2022年にかけて大幅に増加し、2020年度は+4.2%、2021年度は+7.8%、2022年度は+5.1%とこれまでにない利益率となりました。これらは、コロナ関連の診療報酬の特例措置や空床補償に関する補助金等によってもたらされたものであり、実態の医業利益率とは大きく乖離しています。コロナ患者を受け入れる一部の医療機関は大きな恩恵を受けましたが、これらの特例措置や補助金は一時的なものであり、2023年度末にかけて段階的に縮小・廃止されています。
コロナ禍における医業利益率の低下の原因は、入院患者数の減少に伴う入院診療収益の減少による影響が大きく、患者の動向が変化して以降、2022年度に至るまで大きな改善は見られていません(入院患者数の動向は第1回の記事を参照)。また、昨今の物価高騰による費用の増加は利益をさらに押し下げる原因にもなっています。
コロナ関連の診療報酬や補助金の廃止、物価高騰による費用の増加、少子高齢化に伴う人手不足等が顕在化しており、2024年度以降の病院経営はこれまで以上に厳しくなることが予測されます。
医業利益率・総損益率の推移(単位:%)
※出所 :厚生労働省「医療経済実態調査」
(医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の医療機関等の集計1 一般病院)をもとに加工
コロナ前後(2022年度対2018年度)の収益・費用差額(単位:千円/年)
【今後の病院経営の課題とキーワード】 ①患者数の減少 ⇒マーケティング、機能再編など ②物価高騰 ⇒コスト削減、コストコントロールなど ③少子高齢化 ⇒採用戦略、業務効率化、生産性向上など |
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本稿の執筆者
坂本 浩幸(さかもと ひろゆき)/株式会社日本経営 戦略コンサルティング部
株式会社日本経営
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